演奏会本番。今回は初めての「マチネ」だ(フランス語風にマチネーと発音している日本人が多いがフランス語には長母音はないので「マチネ」の方がフランスの発音に近いだろう)。
会場である「なかのzeroホール」に嫁と向かったのだが、駅を下りて逆側に歩いてしまい、10分ほど遅刻してしまった。私は殆ど遅刻というものをしない人間なので、内心凄くイヤな予感がした。
私のこうした予感は結構よく当たるのだが、考えられることは二つ。演奏でしくじる。と楽器を壊す。だ。演奏でしくじるのは1回キリなので防ぎようがないが、楽器を壊すことのないように以後細心の注意を払った。
演奏でしくじる心配でいえば、実は朝の段階で喉が痛かった。どうやら風邪を引いたようだ。咳が出るとか熱があるわけではなく、単に喉が腫れている感じで演奏には絶対支障があると思われた。
可愛い方のヴィオラ奏者からレモン味のグミをもらって、少しは改善されたが、これ以後喉の痛みとの格闘は続く(笑)。
うちのオケは初心者が多く、ステージ慣れをしていないということで、通常のソワレ(夜の演奏会)の場合午前中に、合奏練習、午後に通し稽古、そして本番と都合3ステージ分も演奏させられる。
正直体力が持たないし、集中力もとぎれる。しかし今回はマチネなので午前に練習を1回やって、ハイ本番!指揮者はテンションが上がる前に演奏会が来てしまわないように、朝のうちからテンションを上げていきましょう!といっていたが、私は絶対にこの方が集中出来ていいと思う(この話はあとに続く)。
さて、この日、トロンボーンのない曲で、指揮者がサウンドチェックをする為に、私が代振りをさせてもらった。友人の暖かい配慮が心に染みたが、私の為の時間ではないので、彼が普段やっているテンポピッタリで振ってみた(気づいた人いる?)。
最後のアレグロのところで打楽器とトランペットがえらく遅くなっていたが、このことについて勉強出来たのが私にとって大変収穫になった。というのも、普段の練習では指揮者の後ろは大抵壁だ。
ところが本番では指揮者の後ろに広大な空間がある(言わずもがな客席だ)。実際私がトロンボーンを吹いた時に指揮者に開口一番言われたのが「遅い」ということだ。トロンボーンだけを吹いていては気がつかなかったが、この日指揮台に立てて本当によかった。
そして、愛着あるこのオケの前に最後に立つことが出来て本当によかった。
慌ただしく、食事をしてすぐに本番。いつもなら指揮棒を持って舞台袖でみんなの様子を見て雰囲気を楽しむのだが、今日は自分のことに集中。とにかくフィンランディアの出だしの音をパシッと決めれば、あとはなんとか流れる。
私的にはド頭の音80点くらいの出来だったのだが、音程的にぶら下がることもなく、かといって割れることもなく、無事に発進出来た。最大の難所はトランペットと合わせるファンファーレの部分だ。
トランペットのテンポがいつも一定でないので、練習の時は無視して指揮者に合わせているのだが、音質的には当然トランペットの方が通る。トロンボーンと合わなければバラバラに感じるのは必定だ。
いままではしていなかったのだが、今回はトランペットに合わせることにした。しかしトランペットが早く出た時は合わせられないので、最初の音を捨てることにした。隣で一生懸命私に合わせてくれるバストロンボーンには申し訳ないが、それしか方法がなかった。
フィンランディアが無事に終わり、マイスタージンガーはもう神頼みしかなかった。どこでバテて音が出なくなるかは、自分でも分からないからだ。フィンランディアのダメージがどれほど残っているのか?
早い時には練習番号のEから音が出ない時があった。しかしそんなこと心配しても仕方がない。指揮を見て食らい付いていくしかない。
ところが、神様っているもんだね。あれほど心配したマイスタージンガー、最後まで大きなミスはなく、ハイトーンも全部当たった(奇跡)。音量も申し分なかったと思うし、本当に1年間練習してきて、私に関していえば本番が一番の出来だった(笑)。
展覧会の絵は実質的なトロンボーンの見せ場はないから、ほぼ1部で私の仕事は終わったことになる。ホッとして短い休憩を挟み、2部へ。私の出番は「カタコンブ」までないので気楽なもんだ。
問題は最後の「キエフの大門」で指揮者の「タメ」についていけるか(そこまで音延ばせるか?あの大音量で!)ということだけだった。事前にバストロ奏者が金管の人たちに「音量は抑えて、音が切れないようにしましょう」と根回しをしてくれた。
こういう人がうちのオケには必要なのだ。決して出しゃばるわけではなく、しかし指揮者の意図を演奏という形にまとめる人が。カーニバルの最大の弱点はそこなのだ。初心者のオケであるが故に、みんなに「弾けなくて当然」という思いがある。
合奏をするには合奏のやり方がある。個人が弾けなくても合奏はいくらでも補強しあえる。バストロ奏者の影の活躍。今日の演奏会が成功だったとしたらMVP候補の1人に間違いなく彼が入るだろう。
キエフの出来については私は正直よく分からない。もう、吹くことに精一杯で周りを聞く余裕は全くなかったからだ。考えても見て欲しい、3分間くらいずっと全力で「フー」と息を吐かなくちゃいけないのだ(そら吸う時もあるけどさ)。
顔面蒼白、意識朦朧、貧血を起こして倒れない方が不思議というものだ。
しかしこれが火事場のクソ力なんだろうね。吹き切っちゃったよ。舞台袖で「死んで靖国で会おう」なんて金管奏者で笑っていたのだが、最後までとぎれることなく吹ききったよ(他のパートは知らないよ、しつこいけど)。
サプライズ演奏であった結婚行進曲では2小節ほどしくじったが、ハンガリー舞曲と合わせて大過なく終了。しかし天国と地獄がすさまじかったね。ラッパ走る走る。1拍は楽にずれていて「この曲輪唱だっけ?」と私は初めて演奏中にトランペットの方を見ちゃった。
終演後トランペットに確認すると、走ったのは打楽器とのこと、打楽器奏者に聞けば打楽器はトロンボーンに合わせた、とのこと。エッシャーの画じゃないんだから(笑)。
本当はこの曲は指揮者とトロンボーンの勝負で、トロンボーンには超絶技巧のスライドワークが求められる。テクニックという意味では今日のプログラム中最も難しいのだ。しかし指揮者とトロンボーンの思惑をよそに、全部トランペットに持って行かれた。
これほど崩壊した天国と地獄も珍しいだろう(笑)。
それでも演奏会全体がよかったのはいつもの通し稽古がなかったからだ。大人の楽団は教育団体ではないので、雰囲気に慣れさせるというよりも、集中力を保つ方が大切だと感じた。
いままで一番いい演奏会だったのは、最後まで集中出来たからだ。だから集中が切れた天国と地獄は崩壊したのだ(笑)。
しかし、それもこれもみんないい思い出。
打ち上げでのみんなの笑顔忘れないよ。私は本当にこのオケが好きだった。練習がいつも楽しかった。でもね、悲しくはなかった。みんな笑っていたから。それに私もみんなも薄々感じてはいただろう、これっきりということはない、ということに。
2次会で更に飲み、3次会ではカラオケ。しかし何件行っても物足りなかった。終電間際でカラオケは終了し、帰宅の途についた。家のそばまで来た時に1部の指揮者から電話が入っていたので、してみると「どこですか?」との問。
彼はカラオケ屋の前で飲んでいたのだそうだ。もう家は目の前、喉の痛みがなければとって返してもよかったが、そこまでの元気はなかったので、泣く泣くさよならをした。
長い一日だった。でも私的には演奏で最高の結果を残せた日だった。「どんなもんじゃ~い!」と言いたい気分だった。
最後の最後で本当にいい想い出が出来た。多分一生この演奏会のことは忘れない。

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